で見詰めた。
私は「ここが幼い時、私が居た町だ、桜のたいそう美しい町だ、お前も良く知っていると思うが」と言い手に刀と能管を持って
いたが、それを地に置き、女をじっと見詰めて言った。
「さあ、答えてくれ、お前は一体、誰だ?」女は、「さあ、誰でしょう」と言った。「ふざけるな!」私は女の肩をがっちりと
2本の腕で鷲掴みにして迫った。「お前は妹か?それとも初めに現れた女か?死なない女よ妹だろう?妹だろう?帰って来たんだ
ろう?そして何時も俺が打ち拉がれた難破船の様になると色々な女となって北極星の様に道標となって俺を迷わせなかった。そう
だろう!」「いえ、違います、確かに貴方の妹として生まれた事も在ります」と女は言った。
「え…………では一体お前は誰だ!何と言う名前なんだ?」女は答えた。「名前など在りません、私は遥かな過去神代よりも、
もっと前から輪廻を繰り返した貴方を愛し続けた女、貴方を愛するために生まれた女、女です。私に名前が在るとすれば、それは
永遠の愛に生きる女。
貴方の妹でも、まして失踪した女でも在りません」 私は驚いて「そうか、と、ただ一言、言った」女はさらに続けて「幼い時か
ら貴方は気付かなかったかもしれないけど私は貴方が定められた人だと知っていました。小さい頃から悲しみの余り、この橋で元
気を無くして川の流れに悲しみを浮かべ忘れようと立っていた時、私は桜の影で、そっと黙って見守っていました。また、在る時
は慰め励ましたのです。私に恋をしている事も知っていました。私が居なければ貴方は生きてはいるが死んだ人、だから何時も私
はたとえ肉体が死んでも愛の力で蘇り現れるのです。そして私も貴方が居なければ花を咲かせることは出来ませんもう永遠に一緒
に居ましょう」と言った。
私は何時も胸に大切に閉まって置いた、桜の花弁のハンカチに包まれた髪を取り出して「もうこれは必要は無くなった」と言っ
てハンカチを、そっと広げ川へ流そうとした。すると、えも言われぬ軽やかな、どんな堅い蕾も、ほころばせる春の風が髪をさら
さらと空中に舞わせた。
そして舞った髪は桜の花弁になった。さらにハンカチの絵の花弁も本当の花弁となって空に舞った。
私は茫然として眺めていたが、在る事に気付いて女を見ていた。すると女の姿は日本の中世の貴婦人の姿に何時の間にか蛹が華
麗に蝶になるように輝いていた。
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