私は「お前は桜の精霊だったのか!あの美しい妙法蓮華経の比喩を聞いて『門の外、法の車の声、聞かば我も火宅を、い出にけるかな』

歌った梅の精霊
とも和泉式部の霊ともつかぬ女では無いとは思っていたが。

 しかし、世の中に花が桜が無かったら何と寂しかろう、いや、優しい動物や自然が無かったならば『世の中に絶えて桜のなかりせ

ば春の心はのどけからまし』と昔男の歌には在るが、私には桜が必要だ、それは私も永遠に桜の精霊である、お前を恋するからだ、

私にも名前など無い、ただ桜の精霊を永遠に愛する男というのが私の名前だ」そして歌った。「ちはやぶる神代の
御世に定まれ

る宿世の縁、君が恋しき」 女も返して「久堅の花の栄華の今宵こそ宿世に、付きける日にこそ燃なむ」と。私は「あの時、この街

を離れる時、風も無いのに桜の花弁を吹雪の様に散らせてくれたのはお前か?」と聞くと。女は「そうです私です」と答えた。 私

は「有り難う、いい思いでが出来て嬉しい、これから私は死ぬつもりだ」「えっ」と女は言った。私はさっきの刀を抜いて自分の腹

を差した。

 「何をするんですか!」女は叫んだ。苦しい息の中で私は「世の中で掛けがいの無い女をどんな理由があるにせよ殺した。人は、

なによりも心から悪いことをしてしまった、と言う心が必要だ、たとえ人にそのことによって唾を掛けられ石をぶつけられ殺されて

も、どんな立派な姿、地位、名を持っていても罪の意識の無い人、人を悲しませて平気な人が、世の滅びる時、秩序とか世間体、

道徳が無くなる世の終わりに、どうして人を愛せるのか?その時こそ小さな、小さな優しさ、愛こそ、神や仏がこの胸に生きる時だ

、桜の精霊よ私を許して
くれ、そして永遠に2人で暮らそう」 倒れながら刀は背中を突き抜けていた。

女は「可愛そうに、もういいのです」と言って泣いた。そして「いま楽にして上げましょう」と言って私が刀を握り締めている手を

女が触れると、剣は何時の間にか女の手に在った。 血で暗赤色に染まった、私の服に女の手が触れると私は蘇がえった。私は女に

「私達も罪を犯してしまった」と言った。「生き物は男と女の遺伝子が混ざって組み替えが起こって両親とは違う優れた物を

作るため男、女が在ると聞いた。私達はそれを無視した。近親より遠い血を求めるのが自然の掟だ。それに男女は他人が、それを乗

り越え愛するから素晴らしいのに。いや、そんな事はどうでも良い、もし家族で私達の様な関係が秘密で行われ人を欺くならば世の

中は誰を信じれば良いのか?私達は人を欺かないだから死のう。私は何のために生まれて来たか精霊よ永遠の

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