切られたもう1つの池が姿を現す。 2人は冬の、物憂げで時間の進まない様な気怠い、それでいてちょぴり優しい厭世的空気に包まれている夕暮れ迫るキラキラ光る 私はふと光る漣を眺めながら 「さざ浪や志賀の都はあれにしを昔ながらの山桜かな」と口ずさむと。この池が湖に見えたのか女 「茜さす紫野行き、標野行き、野守は見ずや君が袖振る」 この相聞の答えはたった1つしか無かった。 私は夕日が雲に影ると薄 「紫の匂へる妹を憎く在らば、人妻ゆゑに我、恋めやも」と返した。私は「夫と兄せ、とは、いずれか愛しき?」と聞いた。 女 妹と結ばれた日は妹の誕生日の7月7日。今、妹に生き写しの人妻と結ばれたのが、私の誕生日。余りにも出来過ぎている。 女と別れる時、「明日、私の母の一周忌が在ります、貴方も一緒に来ませんか?」と言うと、女は「血縁でない私が?」と言った。 「いや、母はきっと喜ぶでしょう。人は誰でも愛していた行方不明の人が現れたら嬉しいと思うじゃ在りませんか」と言うと、「何 った。私も、この1年、劇を演じてしまった」と私は言った。「3月2日の夜に会いましょう」と私が言うと 「私は結婚している |
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