原田俊介のページへ

何発か、ひっぱたいて床に組み伏せた。女は手を払おうとしたが、痩せせても腕立て伏せ100回ぐらいは出来る男の腕力にねじ伏せら

れて、がっくりと諦めたように力を抜いた。

 私は女を強姦してしまった。終わった後、女の無表情な顔から涙が流れたのを見て、幼い日、母が泣きながら諄々と悟したことが

意識に昇った。

 ひどく悲しい。私は女の胸の上で体を揺すって首をうなだれ泣くのを堪えた。しかし、堪えれば、堪えるほど逆に駄目だった。女

は妹その物だった。そのことが私をさらに悲しくさせ、私は、女の胸に縋って子供の様に甘えて、ひどく泣いてしまった。

 「許してくれ、でも、お前は妹だ花嫁だ妻だ命なんだ」と泣きながら声を震わせていうと、女は私の髪を撫でながら「いいのよ」

と一言、言った。 感情が静まると私は身を起こして身支度をして女の乱れた姿に言った。「許してくれ、でも俺は、決して、決し

て、死んでもお前との結婚を諦めない」女は少し身を起こして、私の心を覗くかのように視線を合わせた。

 「憎かったら胸を短刀ででも突き刺して殺してくれ何時でも来る。身分証明書も置いていくから警察に言いたきゃ言ってくれ、俺

は罪を逃れるつもりは無い、俺は妹が死んだ時に破滅したんだ。でも、お前を幸せにしないと死んだ妹も悲しむ、きっと、1年でも

1日でも、せめて1時間でも幸せにしなきゃ必ず迎えに来る、明日また来る」と物言わぬ女の、まるで暗号を
送り続ける様な心の窓

を閉めるように飛び出し階段を降りて走り去った。

 「あの女は俺を許してくれるだろうか?」と独り言を言った。「殺されたって言い、いや寧ろ、その方がいい、でも少しでも幸せ

にしてやりたい」と、また独り言を言った。

 自分は愚かだ!どんどん根を張る様に伸び覆う自己下愚の動きを観察したが、しかし、微々たる、そう巨大な岩山の頂上に幻視の

様にキラリと赤く光る希望を私は見た。犯したのは悪い、でも、あの女がいなければ駄目になる「希望なんだ!」と口が勝手に言

った。 夜、新大久保の安いベットハウスに止まって一睡もしなかった。翌日、疲れを我慢して1日の仕事を終えた。仕事の合間に

歯、顔を洗い髭を剃って身嗜みを整え女との再開を期待した。

 店に急ぐと女は休みだった。直ぐアパートに急ぐ。アパートに着くと女のアパートに灯はついている。扉を叩いて

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