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に向かって仲よく腕を組んで歩いて行った。

 2人の住む大都会は嫌でも人々に孤独を感じさせた。金の無い物には砂漠のような町。しかし高層ビル、ネオンサインの洪水、シ

ョウウインドウ、人の波と活気は、いやおうなしに、そこに住む人々に、それらは都会の近代的夜想曲や、舞曲のように聞こえ、

それらの曲は、また都会という演奏会場へ人々を誘った。

 高層ビルから見る光をちりばめたような下界に2人は多くの人々の愛、悲しみ、喜び、憎しみなどが交錯しているなどと話し合っ

たこともあった。

 また、ある時2人で何の目的もなく銀座にいった。その日は、ぱらぱらと雨の降るあいにくの天気であった。丸の内線の出口を出

てソニービルの横を通り三愛の辺りまで来ると突然、雨脚は強くなった。2人はビルの中へ飛び込んだが、何を思ったのか急に妹は

雨の中を飛び出した。私は暫くそのことに気付かないでいると強い雨を浴びながらなにやら茫然と立すくんでいた。直ぐ手を引っ張

って建物へ引きずり込んで「どうしたんだ?」と聞くと「一杯の華やかな絵の具が地面、一面に流れていたんですもの」と小声で

答えた。「え、どこ」と見ると雨にひどく濡れた地面は銀座の色とりどりのネオンの光を流れるように反射して流麗に色を競うパレ

ットのようであった。「そうか」私の視線は笑っていた。「ハンカチかしてごらん」と言って私が妹にあげた桜の
ハンカチで妹の長

く濡れてし
まった髪や服を拭いてあげると、私の瞳孔の底までじっと妹はうつむき加減で眼差を向けていた。「どうした?」と言う

と「うん、何でもない」と恥ずかしそうにいった。私は「早く止まないかな」と妹に背を向け外を見た。

 「寒い」と妹は私の背中から手を回し前で腕を組んで私を抱いて顔を擦り寄せた。「よし、なんか温かい物を奢ってやるぞ今日は

一杯金を持ってきたからお前の好きな物なんでも食べていいぞ」と言うと「嬉しい」と私を抱きながら体を震わせて喜んだ。私達2

人はとても楽しかった。「お前まだ好きな男はいないのか?」と聞くと「だって、お兄ちゃんのお嫁さんになるんだもん」と冗談ぽ

く答えた。「馬鹿言うんじゃない」と私は「くす」と笑ってからかうように言った。しかし、内心いつかこの幸せは必ず崩れ去る時

が来ることは避けられない、妹にも他の男と恋をする時が絶対にやって来る事は日を見るより明らかだった。

でも、それが1日いや1時間、1分、1秒でも遅れることを願わずにはいられなかった。

妹ととの今が幸福であればあるほど幸せな時は長くは続かないという一抹の不安がぴったりと、いつも寄り添っていた。

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