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昔から定まった妻よ、お前が妹に生まれたのは不幸だった。しかし、たとえ自殺が悪い事で在っても命を捨てて、お前を愛する。私

は、ただ、お前を愛して死ぬためにだけ生まれてきたのだ。永遠の愛を誓うためにだけ」「間も無く東京は壊滅します皆より一足

先に死んで罪を償いましょう」と女は言った。私は「まさか」と言った。女は「いいえ、私の不思議な能力で分かるのです。東京は

核によって滅びます」と女が言うと。私は「そうか」と
、一言、言った。

 「では最後に能管を吹こう」と能管を吹く、もはや、ここは別世界の様だ。1人の人とて居なかった。2人はゆっくり笛を吹きな

がら歩みを進め、女は左の肩に顔を乗せ両手を添えていた。

 幼い時この町を去った時と同じ様に、優しい蜜蜂の様な風の流れが頬を撫ぜた。桜は、はらはらと吹雪の様に花弁を舞せる。世の

終わりと感じた時、女の嗚咽が伝わって来た。

私は左に女を見ると、堪えて前を見詰めながらも、女の頬に一筋二筋涙が流れる。私も胸に込み上げ湧き出る感情が目頭を熱くさせ

視界が曇っていった。静かに歩みを止め2人は涙を拭いた。

 私は「見て御覧」と川の流れを指した。月下に照らされ桜色にくくる様に花弁に染まっている。女は「貴方の能管で舞いましょう

」と言った。そして女が私の服に触れると中世の貴人の服装になってしまった。

 私は貴族などと言う柄ではない、しかし、その私にも、私と女の装束は美しく見えた「お人形さんにも、私達の愛を祝って貰いま

しょう」と女が指を
す桜の花弁一面の地を見ると。2人の童顔の愛らしい有職雛、私達と同じ束帯姿お雛様がいた。

 「そうか今日は雛祭りか」女は「これはお母さんが姉さんのとは別に私にくれた、お雛様よ」と言った。私は「雛祭りに永遠の愛

を誓って結婚するとは母も花見月、兄弟も花見月が命日だ。不思議だ私達も花見月3日に結婚して花見月3日が命日とは………                                            

 女は「東京は滅び去って、もう誰もここを覚えていなくなってしまうのでしょうか?」と言った。私は「それは私にも分からない

、今日、姉さんは母があの日してくれた様に私の好物を作って待っていてくれると言うのに、力と不信と憎しみの象徴の核が落ちる

のか、たとえ世界が粉々の灰になっても人間の真心、優しさ、愛、平和に対する努力が消えるだろうか?いや、消えはしない、消せ

はしない、その美しさが世にあったという真実だけはどんな熱線

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