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母は一体どっちの花が好きだったのだったのか?いや母を花に例えるなら、どっちの花か、私はなぜか母は桜の様な人だ、と思っ

た。

 そして妹の事、社会では気が重くなる事は多い、しかし妹がいた時たまに楽器などを弾いてやったり妹をモデルにして絵や彫刻を

作ったりすると、その時だけは、この夢見がちな佳人の情景を眺めるだけで、高ぶった精神の苛立ちも逆にぐったりとした精神の

悲哀も安らぎ、円やかな
が精神を埋めたのだった。その妹もいない。妹よお前は例えれば何の花か?都忘れか?それとも梅の精か?

桜の精か?。

 僅か1年間に次々と起こった事件はドイツの偉大な作曲家のフーガの様に心の中で事件が主題の様に現れては追い、また現れとい

う様に繰り返していた。

 だが、今日会う女との事で全ては終わる。そんな思いが巡るうちに、食事や身支度を整え、たちまち昼過ぎ。いつもと同じ濃紺の

三揃えを着て車で出掛けた。

 新宿の陸橋に掛かると高層ビル寄りの麓の約束の地点で女を認めた。昨日と同じ黒のベルベットのスーツと白いブラウスの様だ。

今まで私は不安だった。あの女が本当に生きているかどうか、しかし、女は生きていた。速度を落として女に近かずくと亜麻色の長

い髪を春のくすぐる様な風が、なびかせていて女は遠くを憧景する様にしていた。

 まだ私に気付かない。女と私の距離は車、5〜6台ぶん離れていた。そこに車を駐車出来る隙間が在り、車を止めた。車を降り扉

を閉めると女は私に気付た様だ、私は歩道に乗った。

 私と女はどちらからともなく吸い寄せ合う様に走る、2人は中程で抱き合った。私は言った。「待った?」女は 「いいえ」と答

えた。私は「貴方はやっぱり来た、これからどうしょうか?」「散歩でもしましょうよ」と女は言った。

 2人は新宿御苑を散歩したり、百貨店のショウウインドウを見たり喫茶店で話をしたり楽しい時はたちまち過ぎ夕暮れは迫ってい

た。二人はまるで昨日の事など忘れているかの様だった。

 私は「軽い食事でもしよう」と言った「ええ、ちょうどおなかが空いて来たわ」と女、「よし高層ビルの近くにレストランがある

そこで食事をしよう」と言った。レストランに着くと私は「疲れたね」と言いながら座り2人分の食事を頼んだ。

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