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思っていたが、なんたか明るくなったみたいだ、1つ車の運転免許をボーナスの金で取って気晴らしでもしろよ」と私は「そうしょ

う」と言って、その夜から毎夜、練習しだした。

しかし、私から女の面影は離れなかった。不思議なことに失踪した女の事は忘れ掛けていた。内部から「もうその必要もない」と言

っているように感じたし、なぜか今の女と同一人物の様だ、とさえ考えてしまった。私は、夜、教習所へ通い初めて本格的に免許を

取る気になたつた。

 年が開けて正月3日に女から電話で、「どこか初詣出に行きません」と誘いがあった。「では浅草、浅草寺にでも行きましょう」

と話はまとまり、2人で出掛けた。

 賑やかな仲見世を通って雷門を通り本堂へ良くもこれだけ、との人の波、線香の煙を体にふざけて着けて賽銭を、あげ祈って仲店を

戻る途中、人形焼のガチャガチャと焼く職人芸を2人で面白そうに眺めた。

 私は急に腹が減って「腹減ったな………」女も「私も急に」と、2人はお互い微笑んで顔を見会わせた。    

私達は、どこをどう歩いたのか薄汚いラーメン屋に入り、2人で五目蕎麦を頼んだが、幾ら待っても私の分だけが来ない。私は一緒

に食べようと待っている女を不憫に思い「蕎麦が伸びてまずくなるから、どうぞ私に構わず先に食べて下さい」と言って食べさせ

女主人に言うと。

「済みません」と忘れていたのか主人は詫びに新しい入れたての茶を持って来て蕎麦も持って来た。女は食べ終わっていて私は急い

で食べたので味も解からなかった。

 「ふざけやがって、ふざけやがって」私は茶の湯飲み茶碗を指で弾いていると。女は「止めて倒れるわよ」と言った途端、倒れて

テーブル一杯の茶。女は、「やった、」と慌てた拍子に手をコップに少し引っ掛け倒す。「あっ……」と私、急いで女が立ってテー

ブルに手を着く拍子に丼に手を引っ掛けどっと倒れて一面、汁だらけ。女は顔を手で隠し笑いを堪えてる。「逃げよう」「おばさん

、はい、金、釣りはいらないよ」と手渡し、逃げるように店を出た。妙に重なった偶然に2人は、なぜか大笑いをした。

 確かに偶然は重なる事はある。こんなことでも2人は楽しかった。しかし、今、私の目の前にいる女が現れたのは絶対偶然ではな

いと私は信じる様になった。

 私は2月の私の誕生日を教えて。「この日に会って来れませんか?」と言った。貴方の都合の良い日に合わせます

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