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腹に注射をぶち込んで殺した。静脈注射でないので犬は直ぐ死なない。やがては、よろよろと意識を失うのだ。

 犬の解剖のための血抜き。鎖骨の無い犬の上腕を切り動脈を切る、その血を蛇口に着けた。シャワーを流すと流しは一面、真っ赤

な血で溢れる生臭い。血抜きのため心臓を押すと血が吹き出すそれを5分、10分と続けると手が痛くなるが、さらに手を握り拳にし

て柔らかい死体に体重を掛けて血抜きをするのだ。犬の死体は袋詰めにして紐できつく縛ってまるで物の様に捨てた。

 俺も神様からぶっ殺されても何も言えないな、と独り言を行った。仕事のせいか私の心は地獄の入り口に居るように思えた。

 「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」あの浄土真宗の開祖の言葉が暗く激しく耳元で炸裂したような気がした。

 女が居なくなってから酒は止めていた。しかし、仕事の面白くない私は、また酒を呷る様になっていた。真夜中、目が醒めると恨め

しく目を開いた動物の死体が迫って来る様な
気がすることもあった。

 朝、体は鉛の様に重い、家族には何も言わなかったが私は最近プイと病院を休むようになっていた。どうせ止めようと思っていた。

 肉親をもがれた寂しさ妹を死に追いやった罪悪感、女の失踪、仕事の変化、失踪した女を愛していたが、精神に足枷を嵌められた

ような鬱積した気持ちはただ強姦の罪悪感のみを私に語りかけ、それが私を攻め苛なんだ。

 「俺は虫螻、妹殺し、強姦野朗、犬殺し、ああ地獄落ち」津波の様に度重なる泥流に埋まった死体の様に私は深い深い地の底に希

望を絶た
れ息も出来ない様な不安に襲われ出した。

 生きる糧を全く見出だせない暗黒の生命力はやすやすと病魔に魅入られた。僅かな風邪は高熱となり大量の薬も無駄。逆に副作用

で胃腸不良、体重減少、急激な体重減少が恐ろしくヘルスメータにも乗る気がしなくなっていった。なんとか体の小康を得て病院へ

。暫く会わない病院の友人は。「おい、お前どうしてそんなに痩せた?」私は「胃腸の調子が悪いだけだよ」と言ったが「本当にそ

れだけか?」と心配そうだった。

 私は魂の抜けた生きる屍の様だ。死の強迫観念に取り付かれる様になり心は、いつも死神と対話する様になって行

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