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私は思わず「馬鹿野朗!」と怒鳴った。「俺を馬鹿にするのか俺がそんな事でお前を愛さないとでも思っているのか」と泣いた。「

それに俺が一体どんな人間だっていうんだ妹と密通し妹を殺し金もなくたいした良心もない駄目男じゃないか」と言った。

 私は兄と姉に女の失踪を話した。詳しくは女が可哀想なので言わなかったが実は水商売の女であるることを話した「悪い女じゃな

いんだ東京中を探してみる」と言うと。兄、姉は、自分が良ければ良いと言った。

 私は次の日から妹の写真を持って夜、色々な盛り場を探したが少しも手掛かりはなかった。しかし、希望を見付けた心は充実して

いた。

「 第3部 

 あいも変わらず私は女を探し続けていたが手掛かりも無いまま1月程が過ぎた。私は諦めの気持ちが強くなって嫌な気持ちだった。

 そんな時、私は思いも寄らず人事移動を病院から言い渡された。動物実験の仕事だ。私はそこが嫌いであった。汚いし動物を殺さ

なければならない、しかし、病院を止める訳にもいかない。次々に起こる変化は私の肩に石を載せたように1つまた1つ重さを増し

ていった。私の周りの世界が手械や足枷
に私を繋ぎ重くじわじわと締めつるように心身を崩壊させようと圧迫しているようにさえ私には思えた。

 新しい職場そこには生と死は隣り合わせにあった。可愛らしさと汚さバラバラの肉と血、消毒薬の臭い。私は少しは思いやりのあ

る人間だと思う。だが、その優しさは今は荒んでいった。動物は可愛かった、でも解部室ではバラバラだった。

 私は感じ始めていた。この動物の運命と自分の運命を同一視している自分を。母の死、妹の死、女への強姦、女の失踪、職場の変

化。私は
訳の解らない力が蔽い、初め少しづつ染み込んで行くように生命を蝕んで行っていることをそして最後にこの動物達と同じ

死刑が、崖縁に追い込まれる死刑が迫り来ることを。

 私は迫り来る力が自分を、どう殺すのかをいつも考えるようになっていた。高圧滅菌に携わる仕事だったので、これがぶっ壊れて

死ぬのかな、などと想像したり自分が死ぬ夢も見た。

 そんな在る時、ガス滅菌を行うため解部室に入ると、犬の解剖の真っ最中であった。犬は顔を仰向けに横たわり

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