1943年10月21日の青春⑧

哀れなる魂　　破の段　第１部　１９４３年１０月２１日の青春

	２５歳以上の男子なら誰でも選挙権を持つ様になり選挙権を持つ割合は２０・８％になった。が、外に大地主が多くの小作農を支配していた。　智恵子の家だって多くの小作農に農地を貸している家だった。が、こんな社会の矛盾を口が裂けても■■ の家の人々には言え無かった。が、俺の心の内にくすぶる社会の矛盾に対する憤は大きくなる一方だった。　教育も、もちろん小学校だけだが歴代天皇の名、全部を暗唱させられ中には全部憶えている馬鹿も本当にいた。尋常小学校には必ず奉安殿と二宮尊徳の銅像が在った。　そして４月２９日の天長節や２月１１日の紀元節におくもつを貰い学校で校長がこれら国の祝祭日にはタキシードを着て白い手袋、マスクをして教育勅語を読む。読む時はもちろんマスクは取るが、恭しく。　「朕惟フニ我カ皇宗国ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニク孝ニ憶兆心ヲ一ニシテ世々厥ノ美ヲ済セルハレ此レ我カ国体ノ精華ニシテ教育ノ淵源実亦実ニ此ニ存ス爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ夫婦相和シ朋友シ相信シ恭倹己レヲ持シ博愛衆ニ及ボシ学ヲ修メ業ヲ習ヒテ以テ知能ヲ啓発シ徳器ヲ成就シ進テ公益ヲ広メ世務ヲ開キ国憲ヲ重シ国法ニ遵ヒ一旦緩急アレバ義勇公に奉シ以テ天譲無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ是ノ如キハ独リ朕カ忠良ノ臣民タルノミニナラズ又以テ爾祖先ノ遺風ヲ顕彰スルニ足ラン　斯ノ道ハ実ニ我カ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ子孫臣民ノ倶ニ遵守スへキ所、之ヲ古今ニ通シテ謬ラズ之ヲ中外ニ施シテ悖ラス朕爾臣民ト倶挙々シテ咸其徳ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ　　明治２３年１０月３０日。」

	明治天皇陛下の御肖像　教育勅語は「おかしいでしょ」とか小説では言っていますが立派な文章だと思います。ただし軽薄な私には難しいです。
	この文章、おかしいでしょう、こんな文章だいち小学生に聞かせて分かる奴、何人いるか？この国は天皇が絶対の国だった。　俺は子供の時、天皇のパレードを見た事が在る。道端２、３メートル置きに警察官が立ち道路ぞいの家は雨戸を閉める事を強制され天皇が通る時は見物人は４５度に頭を下げられる俺は知らんぷりしてちょっと頭を上げ天皇の顔を見た。天皇の顔は龍顔と呼ばれる習わしだった。また天皇、及び皇族が画面に出て来ると脱帽と字幕が出て脱帽させられた。　俺は色々な本や知識を読んだり知ったりしている内にこれらの事がおかしいと思う様になって来た。俺は西洋の　民主主義に少しの憧れを持っていた。「人民の人民による人民の為の政治」しかし今そんな事を言ったらどうなるか民主主義万歳、共産主義万歳」なんて言おう物なら特別高等警察がすっ飛で来る国だった。大日本帝国と言う国は　俺が確か府立１中に入る１年前、昭和１１年２月２６日、青年将校はクーデターを企て斎藤内大臣、高橋蔵相を殺害した。信じられないぐらい雪の降る日だった。　俺は１中に通うには、まず省線で新宿まで行そこから市電に乗り替え７っめの赤坂見付けで降りた。閑院の宮を左手に通り、そして新坂とも遅刻坂とも呼ばれる坂の入り口に幸楽と言う有名料亭が在る。　なんと、ここは昭和１１年２月２６日のクーデター２・２６事件の時、青年将校が立て籠った場所だったのだ。いやが上にも軍隊と戦争の影は我々の上にさして来た。確か俺が入学した昭和１２年７月７日に日中戦争が始まったのだ。
	YouTube - 天皇裕仁 7 (226事件など)　江戸東京たてもの園　高橋是清邸宅(プログ)　ホテルニュージャパン - Wikipedia

	左は　犬養毅首相　右は高橋是清大蔵大臣(首相)
	しかし昔の事で、もう記憶が薄れて来て忘れてしまった事も在るが良く中学時代を思い出す時が在る。その時の校長は、え………と西村房太郎と言ったろうか、それ程、記憶が薄れているが４月になると遅刻坂を昇り詰めた校門の辺は桜が咲いて美しかった。　府立１中は明治１１年９月２６日本郷區元町１丁目に出来て、その後、色々移動したが昭和４年４月６日に、ここ麹町區永田町へ来た。ここは坂を昇る高台で星が丘といい江戸時代は岸和田藩主、岡部家の屋敷、明治、大正は煙草王、村井吉兵衛の屋敷だったと言う。朝、遅刻坂を昇り、柱に掛かった号鈴で授業が始まる学生生活、こんな毎日を５年続けた。
	(新坂)遅刻坂この坂は小説の虚構(小説は虚構ですが)ではなく実在します。私もこの坂を用事で何回か昇った事が有ります。その理由は転職前の製薬会社勤務の時年２回の組合大会で東京薬業健保保険組合、薬業健保会館に年２回必ず来たからです。一番左の写真はこの主人公の男の出身校、府立一中は実在で(勿論小説の全ての設定は虚構)現在は日比谷高校と言うそうです。この辺に興味が有る方は下の青字クリックしてストリートビューで散策下さい

	Google マップ - 地図検索、東京薬業健康保険組合薬業健保会館 - Google マップ - 地図検索
	「どうだ？お前達の時代とだいぶ違うだろ」老人は私に話掛けた。「ええ」と私は答えた。「初めに神様は平等じゃ無いと言ったが、どうしてこんな事を考えたのか分かる様な気がしないかい、まして当時の日本は朝鮮人は蔑視され新平民も蔑視されていた。ただでさえ青春期は人間として生まれただけで受ける苦しみがなぜ在るのか？なんて事を悩む時代なのに、生まれた時から差別が在るのはどうしてか悩む時に、まして社会が差別を作り出している世の中だったのだ」私は聞いた。「ところで大学には行ったのでしょ？」老人は答えた。「大学かそれも戦争と言う怪物の影響をもろに受けたんだ、それをこれから話そう。　昭和１６年正月の頃、俺は教師に呼ばれ。「成績優秀の為、官立第１高等学校１部乙に無試験で入学出来る事が内定している」と言われた。順調に行けば府立１中、１高、帝国大学と言う順路に俺は乗り掛かった。

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