1943年10月21日の青春⑦

哀れなる魂　　破の段　第１部　１９４３年１０月２１日の青春

	さっきの説明と重複するが昭和８年頃から俺達の家はツーリストと名打って円タク会社を経営していた。その　頃ディスウォットと言う確か米国の流線型の車が在って、それを真似してトヨタが車をやっと東京の街を走らせていた記憶が在る。　日産はダットサンと言う２～３名が乗れる車を作り、ダイハツはオート３輪の車を作っていた。その頃の俺の家で使っていた車はジェネラルモータスのシボレーだった。　これでも分かる様にその当時の日本はとても重工業国と言え無い国だった。そして俺の家は日本の庶民の家だとすれば叔父の■■の家はホードやジェネラルモータスを生み出す米国に譬えられた。　■■の家は日本が米国の足元にも及ばぬ様に俺の家など問題にならなかった。つまり大きな家だったのだ。叔父の性格はお爺ちゃんに似たのだ。お爺ちゃんは幕臣だったと聞いた。この人は学問好きで恐らく幕臣と言うのは嘘だろうが、そんな事はどうでも良かった。俺を大層、可愛がってくれて本を一杯、持っていた。俺が親父に怒られると、ぶとうとする親父から俺を体で庇ってくれた優しい人だった。　大層、上品な人で人々から殿様と言われた人だった。農民出身で在ろうが武士の出と言っても、おかしく無い品位を持っていた。俺が中学に入る時は他界していたが、■■の叔父は、この人に似て、その人物を見込まれて、この旧家に養子に来た。　俺はこの家に来ては叔父の集めた本を読んだり、ピアノをしょっちゅう弾きに来た。俺は友達から借りた発条の朝顔の着いた畜音機を借りたが、こいつ途中ウーン何て遅くなりやがるし、曲も長いレコードはかけられなかった。　しかし智恵子の家には、何と当時、ミルクホールとか名曲喫茶にしか置いてなかった電気式畜音機がありやがんの俺は演劇が１番好きだったけど音楽も大好きだったし声楽も先生に着いて習っていた。だから畜音機を聞くのが楽しみだった。　そして智恵子の身体が大きくなるといらなくなった４分の１、４分の２、４分の３、のバイオリンを貰って弾いていたし４分の４のバイオリンもそして当時、演奏家しか使えなかったピラストロのガット弦も智恵子の使い古しを貰って使っていた。　そんな訳で、この家には良く出入りしていたが、この家には１つだけ欠点が在った。住んで居る人達は心優しい人だった。この家は昔、南北朝の時、光厳天皇を立てた足利尊氏に味方し功が在ったと言われる、それだけ旧い旧家と言われる。　しかし、それは嘘だろう、なぜなら今は地主で百姓だし武具も影も形もなかった。しかし、その事が嘘でない様な古めかしい、何か因縁めいた妖気を感じる雰囲気が在った。それが欠点と言えば欠点だった。　そしてびっくり！大きな廊下の戸はギーと人が前に立っただけで自然に開くと言う仕掛けが在った。その当時こんな家は俺は他に見た事は無かった。　この家の宗教は天台法華宗と言う宗教でまたは台密とも言う。あの理趣経と言うわざとへんてこな読み方をする経をでかい阿弥陀如来の前で叔父が読経しているのを見た。その薄暗い光景も良く俺は思い出す、因縁などと言う古めかしい言葉はこんな光景を見たために俺の心に生まれたのかもしれない。　そんな暗い家なら行なきゃ良いのに、と思うだろ、にも関わらず俺は毎年夏休みになると毎日の様にピアノを練習させて貰った。　「私より熱心ね」「ああ、智恵子ちゃんに追い着かなきゃ」３歳年下の智恵子とこんな会話を交わすのが常になってしまっていた。　それでも叔父や叔母や智恵子は何も言わなかったし時には小学校の時など友達まで連れて来た。瀬古義孝、清原薫智恵子、俺達は竹馬の友だったが、中学に入る頃、薫は奉公に出てしまった。　府立１中時代の俺は成績は良かった。勉強も楽しかった。しかし、たった１つ俺の心に不安が在った。中学になって俺はこの大日本帝国の国の在り方さっきも説明したが心に言い聞かせた物の、教練に対する疑問や腹の内では強い憤りを感じていた。
	(富国強兵は偉そうな事を言っても彼女達が作ったのかもしれない)、左は、ああ野麦峠、右はおしん、昔の日本は貧しかった。

	あゝ野麦峠 - Wikipedia
	戦争は仕方が無いかも知れない、でも女工哀史に見られる弱い物からの労働の搾取で国の基礎を作り、その間に政治家達は鹿鳴館で舞っていた。幕府が倒れても階級制は続いた。公、候、伯、子、男、の華族制度、さらに財閥と言う人達、三井、岩崎家が日本の株式の８０％を持っていた。三井の家には北家、南家と言うのがあり、自分達が栄華を誇った藤原氏気取りでいやがるんだ。　選挙権は１８８９年直接国税１５円以上納入の２５歳以上の男子で人口の１・１％のみ、やっと１９２５年に

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