哀れなる魂 急の段 第1部 8月15日

いてあった。世界平和を実現しよう云々」でも俺はその団体が好きではなかった。その会長は戦前、戦争に

協力的な人物で戦後確か公職を追
われた人だ。そして或る新興宗教の団体の会長の女性関係の醜聞は有名だ

。その宗教団体は日本1大きな宗教団体らしく。そこも世界平和、云々と言っている。それはともかく、外

の新興宗教団体は世界平和をどう言っているかを俺は知らないが、

下の右の画像はビルマの竪琴映画、左は前作のビルマの竪琴動画、元々児童向けの作品として画かれた。
もし世界平和を叫ぶなら俺達の仲間、南に散った兵士の置き去りにされた骨を、何故、平和を叫ぶ前に集め様

とはしねえんだ!え。これら宗教団体は大変な金を動かせる経済力が有ると聞く。またシベリアで死んだ俺達

の仲間の墓参りがもっと自由になる様に何故、政府に働き掛けないのか?長谷川は今も、ひまわりの下で1人

、眠って居るんだ。誰も回向のする人の居ないままに。

そして俺は知らない。これらの巨大な宗教団体が俺達学徒出陣の学生の手記を発行したり人に勧めた話を。俺

達の戦っている悲惨な記録フィルムの映画を進んで開いた話を聞かない。原子爆弾の記録映画を見せて回った

話を聞かない。俺達の仲間の霊は彷徨っている。俺達の霊のため、これらの団体が霊を鎮めるため供養したな

どの話を1つとして聞かない。(※立正佼成会は行っていました。この時点では知らなかったのでたいへん失礼

をいたしました。他にも色々活動をしている団体も有るかもしれませんが御許しを御立派なことだと思います)

これらの団体が中国残留孤児の親探しを手伝ったなんて話を1つも聞かない。
厚生労働省:中国残留邦人等の援護

 俺は何も新興宗教団体の非難をしようとしてこんな事を言っているのでは無いぜ。俺はこう言いたい、た

んなる宣伝文句、かっこつけで無
く、もし世界平和をこれら新興宗教が真剣に考えるのなら僅か半世紀前に

青春を散らせた人達の事を決して忘れないでくれ、と。

 俺は新興宗教の非難とも思われる事ばかり言って来た。しかし宗教団体は立派な事もしていると思うなぜ

なら何千、何万人の人間の心の支えとなっているのだから。けれど戦争で死んだ人達にも思いは有るんだ。

或る本にこう書いてあった。「あの時、無念の死を遂げた犠牲者達は今日この世に存在する者の心の内にし

か生き残れないのですから」と。でも俺は、俺が生きている限り彼等の事は忘れない、決して、たとえ俺一

人でも、そうでなければ奴等は余りに気の毒だ。奴等の代表として俺は言い続けるのだ。そんな俺を幽冥の

修羅に生きる大日本帝国の200万の兵士達は守ってくれるに違いない。そう言うと鬼はすーっと一滴、涙

を零した。鬼はさらに絶句する様に言った。

 ああ、8月15日、俺はこの日を永遠に忘れん、いいや日本の人達は永遠に忘れないでくれ。今の日本は

金、金、金、なんだ総理大臣までそうだ。俺達の仲間はこんな日本を作るため死んで行きはしなかった。可

哀想に。」鬼はさらに激しく泣き出した。

私は読経した。如是我聞一時薄伽梵成就……欲箭清浄句是菩薩……触清浄……愛縛清浄……不空三

摩耶
…時薄伽梵盧遮那得一切秘密法性無戯論如来…大欲最勝成就故毘盧遮那佛大楽最勝成就…

盧遮那佛…我等所三昧善…廻向最上大悉地… 哀愍攝受願…貴賤霊等成佛道…同一性故入阿字。

そして読経が終わると、何と驚いた事に鬼の全身に
が入って鬼の姿は見る見る崩れ鬼は一塵の灰になってし

まった。そして、どこからともなく風が吹いて、その灰を吹き飛ばして灰は消えてしまった。その風と共に

蝋燭の灯も消え、納骨堂内は、また真っ暗になった。

すると闇の中から鬼の、あの地響きの様な声ではなく老人の声に戻った声で私に語り掛けて来た。「廻向

してくれて有り難う。思えば何も彼も
儚い大日本帝国も何も彼も、俺が作った財産も全ては邯鄲の夢枕の物

語の様に消えてしまった。李陵
言った。人生は草露のごとしと全くその通りだ。「祇園精舎の鐘の声、諸行

無常の響きあり沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す奢れる者、久からず、ただ春の世の夢の如し。ああ

、その果敢ない人生で俺は最後に鬼になってしまった。でも
をしてくれたので、やっと餓鬼道の苦しみは半

減した。確かに人生は果敢ない、でも人の思いは残る、どうか俺達の
仲間の事を忘れないでくれ。俺達の仲

間は8月15日のこの日に今も彷徨っている。でも有り難う、廻向
をしてくれた礼をしよう。と言うと声は

とぎれ闇
はまた沈黙が支配した。

天皇皇后両陛下

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