1943年10月21日の青春⑤

哀れなる魂　　破の段　第１部　１９４３年１０月２１日の青春

	「まあ座れ」老人は言った。私達２人は腰掛けた。俺の名前と、どこに住み何物なのかは後で話そう。お前の名前は前から良く知っているがね。　老人は私の服装を、まじまじと見ながら。「お母さんは、お前の服を洗濯してくれないのか？」と聞いた。「いや面倒臭いので、母は毎日洗濯してくれると言うのですが、つい、ほっき歩いてこんなに汚れてしまって」「君は女性に対してずいぶん失礼な奴だな」「どうしてですか？」と私は反発を感じながら聞き返した。　老人は「女ってのは大変だよ髪の手入れ化粧、ハイヒール、靴下、下着、全て男性に見せるため出来ているんだ、その努力は大変な物だ、そうだろう女性が化粧をしたり美しく装うのは男性に少しでも目に止めて欲しいから、と言う心理が少しは在るからだろう、お前はそんな女性の努力を、お母さんが洗濯してやると言っているのに踏み躙っているじゃないか」と老人は私の薄汚い服装を見て言った。　「しかし」「しかし何ですか？」と私は言った。「不平等だよ全く」「何がですか？」とまた聞いた。冴えない服を着た女だって、ただ顔立ちが美しいため美しく見える男だって作業服を着ていたって惚れ惚れするような魅力が在る奴もいる。逆に幾ら高価な装飾品を着けたって下品で見るに堪えない女もいるんだ。在る奴が言っていた。顔を正面から見て、顔を横の線で３等分する、髪の生え際から眉を１区分、そこから鼻の先までを１区分そこから顎の先までを１区分、均整のとれた顔はその３っの区分が等しいそうだ。さらに顔を真正面から見た時の横幅を考えると目の横幅を１に取って横に５等分さらに、縦に鼻のしたから唇を結んだ線を１区分、そこから顎の下までの１区分が等しい、縦に髪の生え際から目の瞳孔までを１区分、瞳孔から唇までの１区分が等しい、これらの比が１人の女の顔に、その比に近けれは近い程、女の顔は美しく見えると言う」「そうなんですか？」「ああ、そうらしい神様は平等なんかじゃない美人とそうでない人を別たじゃないか、そして、これは人間がどんな努力をした所で決して変化する物ではない、それだけでは無い、貧と富、強と弱、悲しみの多い人、喜びの多い人、人生は人によってどうして、これ程違うのだ」と次の瞬間、私を見て、「そう君の目的が俺の話でないことは知っている、しかし、たまには年寄りの話も聞いてくれ。俺は君ぐらいの年に今の様な人生の矛盾を真剣に悩んだ」老人は思い出す様に話始めた。そう、あれは俺が確か数えで１７歳の昭和１６年頃、卒業間近な中学にもゲートルを巻いて通学していた。学校は東京府麹町區永田町２６府立１中の生徒だった。俺は、勿論、頭は坊主、学生服に皮で出来た編上靴を履いて、肩掛け鞄を下げて登校した。社会は軍国主義一辺倒の時代に入ろうとしていた。　俺達の中学時代の１週間の時間割りを話して見よう。月曜、英Ⅰ、英Ⅱ、国語、漢文、歴史。火曜、国語、数Ⅰ、英Ⅰ、数Ⅱ、そして教練二時間。水曜、英Ⅰ、英副、国文法、生物、体育（柔道）………だいたい今と同じだろ。
	三八式歩兵銃(さんぱちしきほへいじゅう)実物の銃を撃っていたとは

	ただ違う所は俺達は週２時間の軍事教練をしていた。中学３年までは村田銃と言う銃を４年５年になると三八式歩兵銃を使って１回の訓練で１０発、撃つ、弾倉には五発入るこの銃を使って、立ち撃ち、膝撃ち、寝撃ち、を訓練する　この銃は戦争が始まると、学生の練習用の銃も戦場に持って行かれたらしいが、肩にぴったり銃を当てないと、骨を痛めてしまうし、引き金の所の用心鉄が中指に当たる、銃を撃つ衝撃は用心鉄の当たる中指に、たこを作りやがった。　まるで疑似軍隊さ、年１回、代々木の練兵所で中学生だけの閲兵式もしたよ。普段は軍事教練は、き練服だったが閲兵式の時は制服にゲートルだった。　年に１度と言えば１泊の泊まりで千葉の一の宮に行って砂地で行軍訓練をしたんだ。砂地で足を取られ、ふらつくと軍隊から来ている教官に平手打ちを食った。　そう手榴弾の訓練もした疑似手榴弾を使ってな。あいつは紐を抜いて、確か１０秒ぐらいで爆発するんだ、勿論、贋物だから爆発はしないが、だいたい皆３０メートルから５０メートルぐらい投げたが、５０投げる奴は………いや、いなかったな。でも２０メートルじゃ話にならんし。　疑似手榴弾を使って、敵弾頭の訓練もした。筒を空に向かって立てた奴が在る。その筒の底にはが入っていて上から手榴弾を入れてぶっ飛ばすんだ。　同級生の中には「俺達はなぜ今な事をしなければならないんだ？なぜ戦争が世の中に在るんだ」と言っている奴がいた。　俺は知っていた。なぜ世の中に戦争が在るのかを。優れた文化人類学者は言う。戦争は人類が農耕を始めたため

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