シベリア人39

哀れなる魂　　破の段　第３部　シベリア人

	終戦から五日後俺達は武装解除をした。その時、荷物を運ぶ用があって朝鮮人達に頼むと昨日までの態度とは打って変わって「運ばないあるよ」と言った。そして「金をやるから頼む」と言うと「日本のお金使えなくなるから入らない代わりに物くれ」と俺達に言った。　その時「貴様！」と俺と一緒に居た江藤中尉は、いなり朝鮮人を殴った。昨日まで俺達をあれ程、篤く持て成して置きながら手の平を返す様に態度が変わったからだろう。俺は江藤中尉を止めた。今の今まで抑圧されていた人々が自分の意思を持ったのを俺は見た。　そしてこの時、三八式歩兵銃に着いていた確か遊標のそばにある菊の紋章を鉄の鑢で削った。軍隊に有る色々な作戦史料や人員の史料は終戦と共に焼却された。この事はどこの日本の師団でも同じ筈だ。遂に、この大東亜の大戦の記録は永遠の暗闇の中に葬り去られた。そして僅かに残った史料も嵐の前の塵の様に散逸した。
	地図は大東亜共栄圏の地図この地域の人々と共に理想の国づくりをとでも申しましょうか「アジア民族自身による欧米植民地からの解放とアジア民族の共存共栄をはかる」を理想とする日本の戦前の戦争の大義名分とでも申しましょうか色々な解釈が有って結論を見ていませんが私はその実体は①軍政のよる労働力調達の優先と②軍表による軍事用資材の調達、③皇民化による現地文化をないがしろにした日本語と日本習慣と文化の押しつけ④土木作業や鉱山労働への強制動員住民に対する暴力的支配が実体ではないかと思います。その証拠の写真をポップアップで紹介します。下の地図をクリックして下さい。

	若し後の世で誰かが、この時代の小説を書こうと思っても決して書けまい、この時代に生きていた人間なら別だが、この後の時代に生まれた人間が戦争の事を書いて再現した小説が有るとすれば、それを書いた奴は大嘘つきだ。何故なら余りに多くの物が国内では空襲で焼かれ軍隊の資料も前の通りで昔の現実を調べる事が難しく、ただ空想でしか書くしか無いからだ。それ程、戦火は色々な物を焼き払ったのだ。　ところで、さっき留学の事を話したがそのお迎えがやって来た。その名はソビエト兵。俺達を強制収容所と言う学校へ入れるために。　ロスケは俺達を恐れている様だった。俺達は彼等に全ての武器を取り上げられた。俺達は暇だっので銃剣術の訓練を防具と木の銃剣で練習していると、身振りでロスケは「止めろ、止めろ」と怯えた様に強制した。　更にロスケの思い出と言えば食べ物の事だ。ロスケは俺達日本兵から没収した餅米を馬の餌にしていた。ところが奴等も馬鹿じゃ無い少しは日本兵の為に残して置いた餅米を日本兵が蒸して食べているのを見て自分達も蒸して食ったら美味しかったに違いない、それから馬にはやらなくなった。　そして驚いた事に、俺達でも確かに美味しいと思った朝鮮林檎をロスケ達は皆で憑かれた様に食っていたこいつら、なんて林檎が好きなんだろうとびっくりしたが、なんの事は無いソビエトに帰ったら桜ん坊みてえな林檎しかねえんだ。それじゃー食うよなー。　ロスケは貧しい国家だ。と、その兵隊を見て分かった。ロスケ達は以外にチビで下品で汚ねえ服を着ていた。将校の拳銃の横に銃芯を掃除するブラシが」何時も付けて有やがった。それだけぼろい銃を使っていたって事さ。　だが俺達は、その薄汚ねえロスケの船に乗せられた。朝鮮の咸興には大きな窒素工場が有ったのを憶えている。その咸興から船に乗った。ロスケは口々に乗れ乗れと日本兵を船に乗せ、乗った後にスコール東京、スコールと東京などとぬかしていた。何がスコール東京だ。　しかし陸づたいに船が進むから日本海を渡るのでは無い、おかしいと言う事が直ぐ分かった。そして先ず着いた所がウラジオストック、次にナホトカに着いた。そこから歩かされてスーチャンと言う炭坑町に行かされた。　ソビエトと言えば日本に居た時に読んだ資本論やレーニンの帝国主義論を嫌でも思い出した。あの思想を実践している国。そして俺は少しはこの国に憧れが有った。　トルストイの復活に出て来るネフリュードフの素晴らしい暮らし、チャイコフスキーの音楽、バレー、ここは古典バレーが完成した所だ。白鳥の湖、眠れる森の美女、胡桃割り人形の美しい場面が眼に浮かぶ様な風景が有るかもしれない。もしかしたら美しい二人の男女がその風景の中でグランパドゥドゥの様に舞う姿を俺は見るかもしれない。　かの国の宗教は希臘正教で必ず少しは、それ等の宗教的雰囲気が有るに違いない。人々は正教の賛美歌を合唱し街には異国情緒が漂う、たとえ捕虜とは言え少しは、その恩恵に預れるに違い無いと思っていた。　しかし、そこソビエトで見た物は殺風景な何も無い街並みで有った。ところで日本人と言う奴は国中、日本語で通用するところが欧州では、そうは行かない外国が陸続きで隣は外国で別の言語なんて事がざらだ。日本人は国内なら何とか言語は通用するし朝鮮も日本語が使えたし中国は日本人か大勢居たし、しかし言葉でもこの国は………俺は増々不安を募らせた。　その点、中国は豊かな国だった。文化的にも物質的にもだ。演習に行くと道教と思われる寺院が有り、また拓本を取りたくなる様な碑が有った。ＣｈｉｅｓｅＲｅｄ　チャィニーズ・レッドと言う、そう言う種類の油絵の絵の具のチューブが有るが、その色で飾られた家々。済南の下の曲阜は昔、魯の国と呼ばれ

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