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哀れなる魂  破の段 第2部 或る無名戦士の記録

つまり下から2等兵、1等兵、上等兵、兵長、伍長、軍曹、曹長、準尉。次は尉官で少尉、中尉、大尉。次

に佐官で少佐、中佐、大佐、次
に将官で少将、中将、大将。その上に元帥。その上に大元帥の天皇陛下で在

る。これで軍隊が階級社会で在る事が理解出来るでしょう。

 そして軍隊の衣、食、住の衣の説明。下着は越中フンドシ、ズボン下、襦袢、上着は軍衣、ズボンは軍袴

、靴下は軍足、帽子は略帽、軍帽、
靴は編上靴、営内は営内靴とスリッパ、これにベルトを締め、銃剣を着

けていた。足にはゲートル、以上全て軍隊から支給。

 次に食は食器は飯碗、汁碗、菜碗、湯碗、が在って全てアルミニューム製で箸は竹製。飯コーリャン飯、

稗飯など順番に当番で炊事班に食
事を貰いに行く。炊事班の奴等は、成績の良くない連中で星二つの一等兵

とは言え決して馬鹿に出来ない。奴等を怒らせたら飯を減らされる。奴等は例外無く豚の様に太っていた。

陰で飯をたらふく食っているからだろう。箸を細く削り食器に残った飯粒まで俺達は取った。そうしないと

奴等の中には頭の上に食器を上げて点検する奴さえいたのだ。そんな炊事班から飯を貰い食事は
喇叭と共に

かっこむ。

 そして最後に住で兵舎と言う。兵舎は縦に廊下が走り、その両側に部屋が在る。その1室に初年兵16名

程が寝泊りする。その1部屋単位
を内務班と言う。内務班の部屋は部屋の中央に大きな机、机の両側に木の

長椅子。その両側部屋の左右に机に向かって右8個、左8個の1部
屋、計16個の寝台が在る。木製の兵舎

に縦の廊下が走っている。

その廊下からこの部屋を見ると柱が2本在って左右に銃を立て掛ける台が在る奥の窓の硝子はテープが×印

に貼ってあった。寝台は壁側が足、中央の木の机に頭を向ける様になっていた。寝台の足元の壁に棚が在り

背?、雑?、
水筒、飯盒、食器などを置く。

これが軍隊の住だ。 軍隊では俺があれ程好きだった本も読める筈は無かった。軍隊には内務令と言う本の

みが兵隊1人1人に支給され大切にされるその本のみが読めるのだ。俺は暇な時は、こればかり読んでいた

歩兵操典。
作戦用務令、軍隊内務書、そして軍隊手帳に書いてある軍人勅諭、この手帳は中隊事務室に預け

るのだ。

 軍人勅諭は必ず憶えさせられた。軍隊手帳の初めに朱色の活字で印刷してある明治天皇の軍人への訓戒。

「1つ軍人は忠節を盡
すを本分とすべし」何てね。さっきも言ったが外に読む物が無いから嫌でも内務令を

憶える。「軍人ノ主トスル所ハ戦闘成リ。故
ニ百事皆、戦闘ヲ以テ…何てのも憶えてしまった。軍人勅諭の

憶えさせ方なんか尋常小学校でやった、神武
、綏靖、安寧、懿徳、孝昭、孝霊、孝元、…かの歴代天皇の名

前を暗記させられる方式と本質的に同じ物だった。

 軍隊の1日
は起床喇叭から始まる。「起きろよ起きろ皆起きろ起なきゃ班長さんに叱られる」と聞こえる

リズムと共に初年兵は営庭に飛び出し国防色の襦袢、股下で
寝ている所を飛び起き軍足、軍袴、軍衣、略帽

、営内靴を素早く身に着け営庭に二列横隊になり教育係りに「第○内務班、総員○名、番号1、2、3、…

…」と点呼
の後、軍隊体操洗顔、演習準備、次に「かっこめ、かっこめ」の喇叭で内務班の中央の机で食事

。あの豚みたいな兵隊の居る炊事班に当番兵が食事を貰って持って来る。そして初年兵に配る、もちろん俺

も当番をした。

 軍隊の演習は基本的には中学の教練と同じだ。ただ1つ重大な違いは、ここが本当の戦場で在ると言う

事だ。子供の時に見た田川水泡
の、のらくろ武勇談に書いてある戦場とは訳が違う。俺は、ここで色々な死

と非人間的扱いを、まざ
まざと見せ付けられる。 

ここで嗜好品、煙草、酒の話をしよう。幾ら軍隊だって煙草と酒は支給される。親父は俺に光と
言う煙草を

、幾らか持たせてくれ
た。俺はそれを直ぐ上官にやった。軍隊の煙草は誉れと言って、まずかった。下士官

は一般兵隊用とは違う煙草を吸っていたが光の方が美味しかったらしく
喜んでいた。俺は中国で手に入るイ

ギリスの煙草を吸っていた。酒は支給で俺は軍隊に入る頃は酒が大好物になっていた。しかし、この酒をき

っかけとして
俺は思い出に残る、私的制裁を受けた。古参兵が初年兵に行う私的制裁をである。 軍隊に入

ればリンチ
は日常茶飯事だ。どんなリンチか。例えば捧げつつ最初の2〜3分は銃をきちんと持って居られ

るが10分〜15分と銃を持っていると、さすがに腕が下がって来る。ふざけやがって。すると、「コラー

!」何て気合いを入れられる。次に自転車と言う奴、内務班の部屋の2つの寝台の間に立たせて両方の寝台

に手を着いて足を持ち上げる、丁度体操の平行棒の様な格好になる。自分の体重を両腕だけで支える。持ち

上げた足を漕ぐ様にしろ、と命令される。初めの1〜2分は良いが、終いにや顔が歪んで来るぜ。 次に蝉

、柱にしがみつかせて蝉の真似をさせやがる、ミーン、ミーン、ミーンそれを見て笑うんだ古参兵が。ふざ

けんな!。次に鶯の谷渡り。寝台の下を潜り頭を上げてホーホケキョ、ふざけんなてんだ。もっと頭に来るのは軍隊

は女性は絶対に居ない社会だ。こう言う所に限って居るんだよ、例のホモちゃん
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