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哀れなる魂  破の段 第2部 或る無名戦士の記録

気付いた。

 黄河(ホアン)であった。黄河中流域を制した国が天下を制する。中華、中国と言うのは恐らく中流域を制

した国と言う意を秘めているのだろう。そ
んな事を考えているとついに中国に来たと感じた。

 白日、山に依りて尽き 黄河、海に入り流る  千里目を窮めんと欲して 更に登る一 層の楼。思わず王

之渙の
五言絶句が浮かぶ。窓際に座っていた俺は黄河の流れを見ながら平仄の黒丸、白丸を窓硝子に指で書

いた。

黄河の様子
YouTube - 洛陽 [中国大紀行DVD 第1巻 黄河に悠久の歴史を辿る より]

 儒教、道教、仏教など多くの文化を中国に学んだのに漢字も深く日本文化に影響を与えたのに聖徳太子、

最澄、空海を初めとする文化人や思想家も漢文を使っている。この様に昔から多くの事を学んだ中国文化を

俺はもしかしたら破壊しなければならないのだろうか。そんな思いを乗せながら列車は最終目的地山東省済


南に向かっていた。

 済南(チーナン)は、水の済南(さいなん)と呼ばれる水の豊かな所だった。俺はこの済南に在る師団、第5

9師団歩兵第54旅団、独立歩兵第45大隊衣4296
部隊へ入営した。 第59九師団は衣師団と言い師

団長は中将、細川忠泰
、旅団長は少将、長島勤、大隊長は少佐、酒井利朗と言った昔の事なので記憶は曖

で恐らく記憶違いが多いだろうが、それは許してくれ。

 軍隊には各部隊の秘匿名と略称が在る俺の部隊は「45is衣4296衣ニ」と言う物だった。ところ

で最終的には俺は済南に居なかった。59師団は山東省の東阿県、城東阿、東平県、城東平、平陰県、肥城

県、城肥城一帯を警護していた師団だったので俺は済南を離れこの一帯へ派遣された。 済南は恐らく春秋

時代の斉
の都であろう周の大軍略家大公望呂尚や恒公等の人物が活躍した国だろう。師団司令部のある泰

の東には泰山がある。そして泰安の下の都市曲は孔子廟がある。昔の魯の国だ。

 下の画像は済南の様子左は城門、右は孔子廟、下は豊かな水の街を表した写真、この小説を元ネタを聞いた■■(故人)の行った時とは様子が違っていると思います。
YouTube - 済南事変・満州事変

 日本にいた時に本郷區の湯島2丁目の湯島聖堂に行った。日本にも儒教の影響は強かった。その影響を与

えた国に俺は侵略者としてやって来た。ついに帝国陸軍の兵士と成ったのである。

 俺達の師団は河北交通の鉄道沿線警備が仕事であり兵隊は顔パスそれが個人であろうと団体であろうと軍

隊は乗れたのである。

 済南には最終的には居なかったと言ったがここで初年兵教育は受けた。期間は4ケ月、更に詳しく言うと

教育を受けたのは済南郊外、弾手と言う所だった。

そして各部隊、中隊へと行く。まず部隊本部の在る泰安へ、そこからトラックで更に2時間ばかり乗って安

仙荘と言う所の中隊本部に行く、もう鉄道は無い。トラックに乗る時は銃剣を付けたまま乗る、何時、敵に

襲われるか分からないからだ。

 安仙荘は炭坑町で中隊は炭坑の石炭のお陰で発電気が使えて建物の周りには鉄条網が 張り巡らされ、そ

れには電気が流れていた。犬や猫が、それに触れて死んだらしくその屍が在った。電気が沸かす蒸気風呂も

在った。

 しかし俺が初年兵教育を終えて行ったのは安仙荘から東へトラックで1時間ばかりの蒙陰塞や、その中間

ぐらいに在る歳口亭
と言う所で初めは主に蒙陰塞にいた。 ここは山と村以外はなにも無い所で安仙荘の中

隊本部も
にも敵を見張る望楼があり、そこで俺は敵を見張っていた。電気は無くランプで暮らす、人は10

名ぐらい居るのだ。こんな話をすると軍隊は楽な所と思うかも知れない答えはとんでもないだ。

始めから初年兵教育から辛いのだ。 その初年兵教育とは?済南は美しい町だった。こんな街へ観光で来ら

れるのならそりゃ良いさ中国の大都市には城壁があり済南も見上げる様な大きな城門が在った。俺は観光の

為でなく初年兵教育を受けるため、その城門を
潜った 「初めの3日間は初年兵はお客さんだから良いがそ

の後からは気を付けろよ」。日露戦争の時、軍隊に入営した親父の言葉を
肝に銘じていた俺は油断しなかっ

た。 

軍人勅諭
には上級者の命は天皇の命とされ兵は階級秩序に絶対服従、1日早く入営しても上級者であり1日

遅れて入営した
者に私的制裁さえ加えられる。 では、その軍隊の階級とは?どんな者なのか?軍隊では襟

章で階級を表す。初年兵教育の時は襟章は赤い布、その赤い布に星1つが2等兵、星2つ1等兵、星3つ上

等兵、赤い布に横に金筋1本は兵長、ここまで兵隊。 その上、下士官は赤地に金筋と「星1つ」伍長、そ

して星1つ加えられると軍曹、星3つ曹長。『金モールの縁』赤地に金筋1本は準尉と言いここまでを下士

官。

 その次は尉官、金モール縁に赤地に金筋1本星1つは少尉、星2つは中尉、3つは大尉。次は佐官、金モ

ール赤地『横に金筋2本』星1つは少佐、星2つ中佐、星3つ大佐。その次は将官、金モール縁で布は全面

金糸の星1つは少将、星2つ中将、星3つ大将。

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