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哀れなる魂  破の段 第1部 1943年10月21日の青春

 秋雨煙る競技場の濡れた土を踏む学徒の足は見事に「ザッ、ザッ」と揃っていた。雨は水溜まりを作り跳

ね返りが足を汚していた。

 その水溜まりの水面は悲しげに学徒の姿を写していた。この悲しい時代を写す鏡の様に。そして学徒達は

捧げつつをその中に君が代が流れた。

 東条首相の祝辞、「国の若人たる諸君は勇やく学徒および聖徒に着き…………」そしてそれが終わると学

徒代表の答辞、「学徒出陣の勅令
公布せらる兼ねて愛国の忠情を僅かに学園の内外にのみ止め…………」壮

行会は嫌が上にも戦意を高揚させる出来事だった。

 幾ら俺達が心の中で戦争反対を叫んでも動き出した巨大な歯車は止まらない。後はただ英、米、中国の日

本上陸を遅らせるだけだ。しかし「こんな上辺だけの勇壮な美が美しい物か!」俺は心で叫んでいた。19

43年10月21日、俺達の散りゆく春、青春の花は雨の中に飾られたのだった。

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